夜明けまでの物語 『 Yè -夜- 』@シアターウェスト
中国の地方都市。その寂れた裏路地に毎夜のように一人立ち、出会う客に身体を与える事で日々の糧を得ている水仙(スイシェン)。いつものように過ごす《夜》だったはずが、一人の青年と一人の少女との出会いが、その《夜》を変えていく。ゲイの自分に後ろめたさを感じながら水仙と《夜》の深い世界に溺れていく青年・夜来香(イエライシャン)。娼婦として水仙と同じショバに立つことに決めた薔薇(チアンウェイ)。
その出会いから紡がれる“自分を否定し、誰ともつながれない若者たちが、それでも、つながりを求めて生きようとする中で自分を見つめ直していく”物語。自分の気持ちに素直になれない、恋に臆病な若者たちに訪れる結末は・・・
四月は残酷な月だと言ったのは火村英夫先生ですけれど(お誕生日があるから)2017年の四月の思い出はほぼほぼ夜の事で(後は富田翔さんが刀剣乱舞に出るって発表されてぎゃーってなったこと)ぼんやり思い出しても素敵な空間と時間だったなあと思います。
観劇したのは土曜の二回と日曜の千秋楽。つまり後半です。
見た三回がほぼ同じ席でひとつずれるくらしか無かったので、違う角度から見たらまた違うものが見れたのだろうけれど、下手側からしか見えないであろう冒頭の水仙の幸せそうなお顔が見れたのは本当に良かったなあとしみじみしてしまう。
ちょっとナタリーさんを見てきてほしい。とりあえず北村諒の美しさが尋常じゃない。チケット代の殆どを払える。
物語はあらすじにある事が殆どを占めている訳だけれど、最終的に私にとっては距離の話だった*1
舞台の冒頭のシーンは水仙と夜来香が水仙のねぐらでセックスする所。これが時間軸だとその後に出てくるシーンに繋がるので、ここだけ時間軸が少しずれている。これはどうしてなのだろうな?と思っていたり、原作である映画ではどうなっているのだろうとちょっと気になっている。あそこを一番最初に持ってくる意味合いとして自分の中で一番しっくりくるのは「二人が一番幸せ」なシーンだから。
それこそレオナルドディカプリオのロミオとジュリエットばりに水仙と夜来香はお互いを見つけた瞬間に恋に落ちているのだけれど*2一度肌を重ねて離れてしまってから、どんどん互いのズレが生じてくる。
それは今まで違う場所で生きていた人間同士だから仕方がない事。仮にゲイであるということを横に置いておいても水仙と夜来香って同じクラスにいても仲良くならなかったと思う…
自分が今まで生きていた事、色んな要素を積み重ねて今の自分であること、そのためのプライドだったりなんだったり。そんな物を捨ててしまう瞬間があるのが恋ってやつなのだとして、ど頭に恋があって始まった夜は朝には弱かったのかもしれない。水仙が「普通ってなんだよ」と言うたびに自分にも刃を突き立ててるようで痛々しかった。
そうじゃなくても夜来香に抱き着いて幸せそうにしている水仙の顔がとてもとてもかわいくてぶわああああってなっていたと同時にその男絶対この後おまえを泣かすぞ…って予感が最初っからびんびんしていた。そして大体この手の予想は当たる。
お話自体はあぁ、そうですね…うん…そうだよね、っていう割と定番だったのだけれど役者さんの存在感だったり見せてくれるものでぐっと来たし、目に入ってくる情報が感情の部分を凄く刺激してきた。
夜来香が「彼の事が分からない!!」と薔薇に訴えているシーンでたまたま居合わせてしまって聞いている水仙がどんどんつらい表情になってしまいには蹲って座り込んでしまった時には夜来香にケチャップ投げたくなった。
正直初見の時にはあまりにも夜来香にイライラして(苦笑)イラッとするたびに自分の手の甲に爪を立てていたため、暫く左の手の甲が酷いことになってた。
natalie.muまたナタリーさんから。
夜来香はこの写真にあるように真っ直ぐに正面から君が!すきだ!!ってぶつかってくる、そしてたいてい手を握って話をしようとしてくる。おまえは彼しか!?まだそうじゃないだろ?って水仙が言う前にこっちも思ってる。真っ直ぐな純粋さゆえの暴力じみた眩しさにちょっと待ってくれ…となってしまう
でも憎めない。夜来香が憎めないのは松村龍之介くんの真っ直ぐな性質がそうさせるんだろうし、それが眩しいって感じてしまうのは私も夜側なのかなってちょっと思った(勿論売春とかしてる訳ではない)
一番好きな台詞は最後の最後に水仙が言った「入ってくんなよ!!」
自分の内側に、自分の生き方そのものを揺るがす存在としてもう認めちゃってるんだよね。そしてそもそも一番最初に夜来香を招き入れたのは水仙なんだよ…
細い体で震えてた水仙を演じていた北村諒くんは、元々綺麗な人だなあ、っていう認識でいたけれど、この人肩甲骨がすごくきれいでね…。これ始まるとただの性癖話になるから割愛しますけど舞台に出てくると色白の肌がぽーって光ってるみたいでそれこそ夜にしか咲かない花のようだった。
水仙も夜来香も本当の名前ではなくて。夜来香に至っては劇中彼の名前を誰も呼ばない(先輩である刺は知っているのだろうけれど)だけど、見ている観客は夜来香って役柄にて発表されているから知っている、認識している。
水仙が夜来香の歌を聞いているのを知っていたから夜来香の花束を持ってきたことについて薔薇がどうせなら水仙にすればよかったのに、と言っていたけれどあの時点では夜来香で正解なんだよね…一生懸命水仙の好きなものを、と考えて夜来香の花を持ってきた彼が「夜来香」って役名な時点でもう「水仙の好きな相手」という意味合いなんだ、しかも夜にしか咲かない花なんだ…って気が付いて顔を覆いたくなった。
水仙が望んでいたのは同じ夜を過ごせる相手で、夜来香が知りたいのは本当の水仙で。ここが一致していない彼等が夜明けのシーンで物語が終わったのだけれど*3あの後、目覚めた二人がどんな話をするか、これからどうなるかは分からない。一旦、ちょっと上手くいくことがあってもまた離れてしまうかもしれない。けれど、どんな形でもいいから出てきた人たちが幸せになっておくれよ…と思う物語だった。
その形がどんな形かは分からない。
もしかしたらやっぱり二人は恋人同士としては上手くいかなくて別れてしまうかもしれない。でもきっと、どこかの町でお互いの事を思い出す瞬間があるんじゃないかな、という、少し暗い場所の青春のお話でもあったのかも。
あとねえ…最後に夜来香が水仙に「ここは世界の果てなんかじゃないよ」って言うのが本当に残酷でおまえはそれだからな…!!ってこぶしを握り締めて手に爪を立てていた。そう思う事で救われる部分がある事を彼は分からないんだろう。だからこそ正面から水仙に君を知りたい!!ってぶつかれたんでしょうけどもね…。でもね、全ての距離をゼロにして、何でも理解してっていうのは傲慢な事だと思うの…。それでも水仙はおまえの事が好きなんだよ…はーもう本当に恋ってやつはどうしようもない。
不思議な事に、二回目を見たら二回目の方がすごいハッピーに見えたので*4回数を重ねると見方がどんどん変わってくるお話だったのかな。
土曜夜の夜来香が、水仙が座っている所で更に自分も座り込んで下から覗き込みながら手を取って君の事が知りたいんだ!!君と話をしたいんだ!!って瞳を輝かせて話した所で水仙も観客もお手上げ!!って感じだった…
パンフを見てるとあのビジュアル展開や劇中の感じを見ると水仙は刺に何度か買われてたのかなあ…とか刺が出てきた途端体中で警戒してるんだもの…薔薇と水仙本当ちょーかわいい!!薔薇、ちょーーーかわいい!!とか色々言いたいことばかりあるけれどひとまずここまでで。見てないものが無くなってしまうのが勿体なくてまだDVD見れてないという…
とても好きな空間と時間でした。
シアターウェストって地下に降りていく劇場だから、舞台上のセットと繋がっているようでそれがまたよかった。
またいつか同じキャストで見れたらいいなあ…でもしんどそうっていうか、なんていうかっていう部分もある。苦笑。*5
あーーーもうね、水仙ちょーーー綺麗だった…!!!ごちそうさまでした!!!!
っていう台無しな感想も置いておきます。笑。